世界最強のドラキュラ現る
ここから少し前の話に戻る。
ちょっと衝撃的な事件だったので思い出してしまった。
その頃は娘達の間でドラキュラが流行った。
何をするのか簡単に説明すると、ドラキュラは寝ていて部屋が暗くなると起き上がり、ドラキュラでない人の首を噛む。そして噛まれた人はドラキュラになる。
というものらしい。
ルールは単純だ。要するに逃げ回る、噛み合う、じゃれあうの子供大好き要素の三拍子。
遊びはこれくらい単純な方が分かりやすくて長続きするだろう。
そして、夜にリビングでテレビを見ていると、風呂上がりで裸にタオルをマントに見立てた長女が突如目の前に現れた。
シャーッ!
私はドラキュラ。 世界で一番強い。 シャーッ!
ドラキュラが来たっ!
ドラキュラは強く、とても怖い。
一度襲われたら最後、その手から逃れることはできない。
ゆっくりテレビを見てる場合ではない。もう魔の手はすぐそこに、とにかく逃げろっ!
さもなくば首を噛まれてドラキュラになってしまう。
僕が役作りをすることで、長女の気分は更に高揚。
世界最強のドラキュラになった。
もう誰も私を止められない。
なぜなら世界一強いドラキュラだから〜!
全ての環境は整った。
あとは長女を焦らして、やられれば僕の任務は終了だ。
噛まれて、もがいて、ドラキュラになった瞬間にまたテレビを見ればいい。。。
さぁ、世界一強いドラキュラよ! かかってきなさいっ。
そこへ思いもよらず突然現れた裸の次女。
一体どこからやってきた?
次女は、長女の名前を呼びながら、ドラキュラめがけてタオルで攻撃。
振りかぶったタオルが一発、ドラキュラを直撃した。
シャーッ!
(長女)ちゃ〜ん!! バシッ!
うわ〜〜ん。 うわ〜〜ん。
え〜?
そんなに弱いの〜?
タオルで叩かれたくらいで大泣きのドラキュラ。
その横でタオルを持って笑っている次女。
この遊びは一体何?
次女は相手が世界一強いドラキュラだと知っていての攻撃だったのか?
だとしたらなんで長女の名前を叫びながら攻撃を?
「ドラキュラめ〜」とかのセリフはないのか?
パパァ〜〜。
うわ〜〜ん。
(次女)ちゃんがぁ〜叩いたぁ〜。
うわぁ〜〜ん。
どうしたドラキュラ!?
(次女)の首を噛んでドラキュラにしちゃえっ!
うわ〜〜ん。
(次女)ちゃんがぁ〜がぁぁ〜。
うわぁ〜〜ん。
もうドラキュラはどうでもいいようだ。
誰一人傷つけることなくドラキュラは滅んでしまったのだ。
あまりにもあっけない寂しい終わり方だ。テレビを消してスタンバイしていた僕の立場は??
ドラキュラの称号を失った長女は、タオルを持って大泣きの裸人間だ。
その横で笑顔の次女も同じく裸人間。
三女はオムツ一枚でウロウロしている。
そろそろ、黙ってテレビ見てもいいかな?